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東京高等裁判所 昭和34年(う)1760号 判決

被告人 李太京

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中七十日を原判決の本刑に算入する。

理由

弁護人の控訴趣意第一点およびこれと同趣旨の被告人の論旨について。

よつて按ずるに、外国人登録法は、同法第一条の規定により明らかなように、本邦に在留する外国人の登録を実施することにより外国人の居住関係及び身分関係を常に明確にし、もつて在留外国人の公正な管理に資することを目的とするものであるから、同法の精神に照らし、前記目的達成のために現実に本邦に存留する一切の外国人に対し同法第三条第一項所定の登録申請義務が課せられているのであつて、当該外国人が本邦に在留するに至つた原因、目的の如何によつてその取扱を異にすべき筋合のものではないと解するを相当とする。従つて出入国管理令第三条の規定に違反して不法に本邦に入国した外国人であつても前記登録申請義務を免れ得るものではないといわなければならない。そしてまた外国人登録法は、本邦に出入する者の出入国それ自身の公正な管理を目的とするものではなく、そのことは出入国管理令の規整するところであつて、その出入国と登録申請とは直接の関係はないのであるから、本邦に不法に入国した外国人に対して前記登録申請義務を課したからといつて、自己の不法入国の罪を供述させると同一の結果を来たすものということはできない(昭和三一年一二月二六日最高裁大法廷判決、刑集一〇巻一二号一七六九頁参照)。それゆえ不法入国の外国人に対して登録法第三条第一項の登録申請義務を課しても、憲法第三十八条第一項の規定に違反するものではないし、また不法入国の罪によつて処罰される危険において登録申請の履行を要求するもので、その履行を期待することは不可能であるとする見解も登録申請の本質を誤解するものであつて、失当である。論旨はいずれも理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 岩田誠 八田卯一郎 司波実)

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